治療前

治療前
治療前
治療前

2020年当時、「CR-COコンバージョン」と呼ばれる手法があることを私は知らなかった。しかし必要にせまられて、ほぼ同じ考えのもと、似た分析を試みていたので、その解説をしたい。
下顎は、ただ閉じたり開いたりする、蝶番のついた扉のような動きをしているのではなく、ブランコのように比較的自由に、右にも左にも、前後にも動くことができる。
この方の場合は、下顎を(お口を)自然に(ブランコが単純に揺れるようにスーッと)閉じてくると、下の前歯が上の前歯のかぶせの表に当たってしまうことが分かった。通常は裏である。
この時上下の奥歯はかみ合っておらず開いてしまっている。通常は前歯も奥歯も同時にかみ合うものである。
これでは食事をするにも大変不都合なので、奥歯がかみ合う位置を求めて自然とずらして噛む(閉じる)癖を身につけておられた。
この下顎の位置のずれを治しつつ歯並びを治さないと意味がないので、目指すべき正しい下顎の位置でのレントゲン撮影をしたいわけだが、前歯が邪魔をして、その位置に行けない。したがって正しい位置でのレントゲン撮影ができない。
できないものは仕方がないので、ずれる直前の位置(噛みこんでいない直前の位置)、つまり上下にわずかな隙間のある状態で上下を固定してレントゲン撮影。
レントゲンの印刷物で下顎骨を囲むように切り抜き、仮に前歯にぶつからずに閉じていったなら、頭蓋や上顎に対してどのような下顎の位置、歯の位置になるのか、確認をしたのである。

治療の概要

当院に来院前後のストーリー

左下の4番目のかぶせが取れた時、これまでずっと通院していた医院では、そこに1本のインプラントを入れることをすすめられたという話を最初に聞いた。
「さすがにその治療はダメだと思ったから医院を変えようと決めた」とのこと。
毎回ずれた位置で咬むことは大変なはずで、癖になって半自動的にできるとはいえ、365日、絶え間なく続く不快感(苦労)が私に伝わってきた。それは・・・。

患者さんは、1本のかぶせが取れたことを解決したいのではない。だからこそ、その歯科医師の話が全く心に響かなかったんだろう・・・。
患者さんは専門家ではないので、モヤモヤしておりハッキリ整理できていないものの、本当はこれまで悩んできたかみ合わせの状況を解決したいという気持ちが強く、そのために今日いらっしゃって、いま私とお話ししている・・・。

インプラントであれ何であれ、最終的なものを入れる前に、下顎を正しい位置に治しておかないといけないことは、歯科医師国家試験でも出題されそうな、理屈としては簡単な話である。しかし実際の治療となると簡単ではない。
患者さんが初来院時に予想している通院回数や治療期間、治療費より、すべて大きく上回って必要となることが多いのである。
特に時間の点では、歯1本1本を丁寧に治療する姿勢で診療をしている私としては、私も患者さんも「いつ終わるの?」という話になりかねない治療が予想された。

言葉を選ばすに言えば、私はその時、怖いなあと感じていたし、逃げておきたい気持ちも少しあったのである。
それはなぜかというと、今回の治療は時間以外にも、
①ずれたままのかみ合わせで作られたかぶせは、すべて作り直しが必要。
②かぶせの形や向きを作り直すだけでは足りなければ、これを支える歯根から向きを変えることが必要。
③歯根の向きを変えること=矯正であり、その変化量は許容される範囲なのかを検討することが必要。
④そうして矯正までしても、根の治療(歯内療法)が成功しないこともあるし、歯根が割れて抜歯が必要になることもある。
⑤このように、すべてのプロセスが成功しないと、治療後に長く安定して機能することが難しい。
⑥したがって、状態に不安の残る歯(歯根)を矯正までして残すより、抜歯してインプラントを多数使うプランを検討することも必要。
こういった状況を、数回お話しさせていただき、お口の状況を調べていく中で、決めていき、理解してもらわなければならないからである。
しかも、患者さんのキャラクターが良く分からないうちから始めることは、失敗のリスクを高めてしまうこともある・・・。

私が「やりましょう!」と言えなかったからなのか、その後9か月ほど、そのままで過ごされるうちに、次は左下のブリッジが外れて来院。これは、かみ合わせが急速に壊れていくサインだと思われた。

その前には娘さんも医院にいらっしゃっていて、素敵なご家族だなと思っていた。
そこで、様々な面で大変な治療になってもきっと頑張って頂けると確信が持てて、お互いに治療に踏み切ることにしたのである。

治療前の分析

治療後

治療後4年
治療後4年
治療後4年
根管治療